ボランティアの榎本です。
廊下を歩いていると、病室から強い視線を感じることが間々あります。
その視線の先におられるのは、会話が難しい状態の患者様であることが
多いのですが、この無言の訴えに気がつくことが新しい出会いに
繋がるケースもあります。
つい先日もそういった機会に恵まれ、
「視線を感じたのでお声がけしてみました!」と自己紹介をしました。
声にはなりませんが、険しい顔でしきりに肩を気にされておられます。
「肩が痛いのですか?」と尋ねると頷かれたので、肩をさすって
差し上げました。先ほどまでの険しい顔が嘘の様に、目を閉じ満足そうに
されます。今日の暑さ、ここまで来る間に見た鮮やかな夏の花々や
緑についてお話しすると、しっかり頷いてくださいました。
しばらくその様にして辞去しようとすると、手を振って見送ってくださいました。
敬愛する作家、遠藤周作の著書にこのような一文があります。
手を握られた者は自分の苦しみや痛みがこのつなぎ合わされた手を通して、
相手に伝わっていくのを感じる。だれかが、自分の苦しみや痛みをわかち
持とうとするのを感じる。彼の孤独感はその時、いやされる。
(「満潮の時刻」 遠藤周作)
わたしはお身体をケアし患者様をお支えすることはできません。
しかし、その心に寄り添うことで僅かばかりでも、患者様の入院生活の
小さな支えとなれましたら幸いです。