まず現在の治療はどのようなものが、どのような考えのもとに選択されているかを解説し、その中で休眠療法がどんな位置にあるのかを含め紹介したいと思います。

       
 

ガン治療は、大きく分けて局所療法と全身療法の2つがあり、これを病気の状態に従って選択、組合せが考えられる。

局所療法は手術など比較的確実にがんを消滅できる治療であるが、がんが局所に留まらず、全身に転移していると意義は少ない。

全身療法は、抗ガン剤が代表で、全身に存在するがんを攻撃するが、その効果は不確実である。

 
       
  つまり、がんは進行度に従って、病気の概念が変貌し、治療方も変わり、そして目的も変わる。  
       
 

がんは転移をまだ起こしていない時期なら、手術で完全に消滅させることができる。最近では、胃癌、大腸癌ではかなり早期のものでは、内視鏡で切除も可能になってきた。

しかし転移が起こると、その病態と治療は一変する。周囲のリンパ節への転移ならば、手術で消滅することが可能であり、実際その方法で治癒が得られた進行がんの患者さんも少なくありません。

 
 
 
 

ところが、遠いリンパ節や異なる臓器へ転移すると、手術では切除しきれないのがほとんでです。 日本では、そういった拡大手術が各種のがんでなされてきましたが、その限界が判明し、反省期に入っているのが実状です。

さらに、全身に転移した高度進行がんや末期の状況では、とても手術などの局所療法では対処できません。 このような状態では、抗ガン剤が治療の主役となり、しかも目標はがんの消滅(治癒)ではなく、延命ということになります。

 
    結局、我々がガンとうまくつき合ってゆくには、  
 

1.潜在がん(目に見えない小さいがん)の存在する可能性を
 常に考え、予防に心がける。

2.検診などを積極的に受け、早期の内にがんを発見する。

3.不幸にも進行がんで発見された場合は、休眠療法でより
  長く共存を目指す。

         ということになると思います。

 
       
 

 
       
 

まず今日からということになると、抗ガン剤の投与方法の変更が中心となります。がんの種類によっては従来から使われているホルモン療法や免疫療法の併用もある程度期待できると思います。

最近、分子標的治療薬と呼ばれている薬が次々と使われるようになってきましたが、これからも血管新生の抑制剤など期待される薬剤が使われるようになってくるものと期待されます。

将来的には、がんワクチンや遺伝子治療も加わるかもしれません。

 
     
 

 
       
 

これを考えるには、まず抗ガン剤とはどんな薬なのか、どのような考え方に従って使われているのかを知る必要があります。

 
       
  1.抗ガン剤の歴史

19-20世紀にかけて人類は梅毒や細菌による病気を抗生物質や免疫などで克服することに成功しました。この流れを受け、1950年代に、毒ガスの一種であるナイトロジェンマスタードによる悪性リンパ腫の治療実験から抗ガン剤治療が始まりました。これが成功を治めたため、種々のがんに試されるとともに、数多くの抗ガン剤が開発され現在に至っています。さらに副作用を抑える薬剤も開発され、より多くの抗ガン剤を投与できるようになってきました。

 
 

 

 
 

これにより、白血病や悪性リンパ腫では治癒が得られる患者さんも少なくありません。しかし一方で、数多くの固形癌(胃癌、大腸癌、肺癌など)では、50年の歴史の上では、確かに効果は格段に上昇しておりますが、延命への寄与はまだまだ小さいのが現状です。これを受けて、1980年代から世界的にも批判的な意見も出るようになってきました。日本でも、副作用が強い割に効果がないことから、「抗ガン剤無用論」が一部の世論に大きな影響を与えてきました。

 
 

 

 
  2.抗ガン剤の仕組み

抗生物質は細菌とヒトの正常細胞との違いの研究から、細菌のみを傷害する薬剤として開発されました。それでは、がんと正常細胞とはどこが違うのでしょうか。実はがんとは、自分の細胞が僅かな遺伝子異常によって発生した自己の細胞なので、ほとんど違いはありません。ですから、あれだけ精密な免疫の網にもかからないというわけです。

 
       
 

ではどんな違いがあるかというと、がんはどんどん増殖しているという特徴を有します。そこで、この増殖する細胞を障害することを目的に開発されたのが、抗ガン剤です。ですから、増殖する細胞はがんに限らず、どんな細胞でも障害します。ところが、人の60兆個と言われる正常細胞の内、僅か0.5%の3000億個の細胞は増殖をしているのです。これが、骨髄、消化管粘膜、毛髪などです。抗ガン剤を投与すると、当然のようにこれらも障害され、これが白血球減少、嘔吐、下痢、脱毛などの副作用につながるのです。

 
 

つまり、抗ガン剤とはがんに効く薬と言うより、がんにも効く薬なのです。言い換えれば、がんが小さくなるのも、白血球減少、下痢、嘔吐も同じ効果だということです。我が国のがん研究のリーダーである国立がんセンターの杉村 隆先生は、「抗ガン剤の主作用が白血球減少や下痢で、副作用ががんの縮小」という意味深い言葉をなげかけておられます。

 
       
  3.抗ガン剤の投与量はどのように決められるか

抗ガン剤も他の薬と同様、多すぎれば毒であります。しかも、前述したようにがん細胞に毒の時は、正常細胞にも毒ということになります。このような難しい薬の投与量をどのように決められているか、多くの人はご存知ないと思います。

実は人が死なない限界の量(最大耐用量)が投与量です。そしてこの限界は、副作用をカバーする薬剤の開発により、さらに高まっています。つまり少しでも多くの抗ガン剤を投与しようというのが基本方針です。

 
       
 

しかし、その量はがんが死ぬ量よりはかなり低い量になることがほとんどで、実際がんが半分程度に縮小するのは、5人に1人程度の割合です。

 
 

もう一つ大きな問題は、限界の量を決定するのに、10-15人程度の決められているということです。実は遺伝子学的に個人によって抗ガン剤の適量が5-50倍異なることが判明しました。これは、分解酵素の量によります。アルコールと同じで、分解酵素が多ければ多量摂取しても大丈夫ですが、少ないと危ないことになります。つまり、まだアルコールを飲んだことのない人に、いきなりウイスキーのボトルを1本飲ませるようなものです。

 
 

そして、このような人間の限界の量を投与し、副作用は我慢して頂いたとしても、延命につながるかどうかは不明なのです。

 
       
  4.現在の抗ガン剤治療の問題点

これはあくまでも私の意見ですが、問題点として3点を左のように提起させて頂きました。

つまり、2-3ヶ月間ひどい副作用に我慢して受けた治療によって、延命が2-3ヶ月では意味がないのではないかということです。言い換えれば、もっと延命できるか、あるいは副作用が軽くならなければ意味ないと思います。

 
       
  5.第3の選択肢、がん休眠療法

以上の現在の抗ガン剤治療の結果から、現在は抗ガン剤無用論に示されるように、大した効果もないのに副作用に苦しまず、がんと闘わずに静かに過ごすか、あるいは奇跡を信じ、苦しみに耐えて闘うかどちらかの選択を患者さんに迫っています。

結局、選択することができず、どうせ奇跡を信じるなら新聞広告を信じて、民間療法、代替療法を試そうという患者さんが多いの現状です。

 
       
 

著者は、もう一つの選択肢として、がんと共存するという道を休眠療法で提供したいのです。休眠療法はがんは消滅できないことを前提とした、極めて夢のない、奇跡も信じない、最も現実的な治療であります。しかし、宝くじで一等賞を当てることを期待して全財産をつぎ込むこともできないのではないでしょうか。稀にしか起こらないから奇跡なのです。がんは消滅できなくても人が死ぬことはありません。共存を目指す、つまりがんという強敵との勝負は引き分けに持ち込むのが得策と考えるのです。

 
 

もちろん現在は、あくまでも3つの選択肢の一つで良いと思います。著者は医学界で他の2つの選択肢と競争し、休眠療法が最も良い選択肢であることを証明してゆくことが自分の使命と思っています(ただし、時間がかなりかかります)。

 
       
   
       
   
       
 

現在の抗ガン剤治療は、がんの縮小を目的(最終的な目的は延命期間)とし、それを達成するため、限界の量である最大耐用量という”より多く”という発想で治療されている。しかし、前述したごとく種々の矛盾、問題点が出ている。

これを解決するため、抗ガン剤の投与量を半分にする、医師の経験からさじ加減をするなどの方法がとられてきたが、エビデンスを重視する現在の医学界からはまったく無視されてきた。

実際、現時点でエビデンスがある抗ガン剤治療は最大耐用量によるものであるが、これはエビデンスを出す時に、この方法しか根拠有る投与量として認められていないためである。

 
       
  継続することを第一の目標として、そのために科学的なさじ加減(オーダーメイド)を行う  
       
 

そこで著者は、左の4つの基本方針に従って新しい投与量設定法を考案しました(上図)。

つまり、従来は治療の当初の目的(最終目的は延命)として「がんの縮小」のみにおいていたのに対し、休眠療法では「増殖の抑制」にする。

治療法としては、より多くのコンセプトに基づく最大耐用量に対し、より長く継続できる最大の量という発想。

しかも、この継続できる最大の量は個々によってかなり異なるため、一人一人で量を設定する。

 
       
 

野球に例えると、ホームラン(縮小)のみを評価すると、強振するのみとなり、確かに当たればヒット(増殖の抑制)になる確率も高いが、バットに当たりにくい。 これをバットに当てるため、ヒットが出る程度の力で振るような打法に変えれば、ヒットが増える。ここで肝心なのは、ヒットを評価する必要があること。 しかしすべての選手がそうすべきでなく、腕力がある選手はホームランを狙うような強振でも良いのではないでしょうか。

 
       
 

具体的な方法としては、「治療の実際、臨床試験のお知らせ」に詳細に紹介しますが、継続できる副作用で留まるよう投与量を個々で設定することになります。

 
 

実際著者らの検討では、最大継続可能量は個々で2倍以上の開きがあり、最も低いグループは従来の最大耐用量の三分の一程度でした。また、重要なのは高いグループと低いグループで効果に差が認められないことである。つまり、増殖の抑制を得るための適量は個人によって異なることを示していると思います。

 
 

個別で設定する最大継続可能量で抗ガン剤治療はどう変わるか!

 
       
 

これまでの最大耐用量の治療では、その量を投与できそうでもないという理由で治療から脱落し、次に投与してみたところ副作用がひどくとても続けられないという理由で脱落し、さらにがんが縮小しないということで脱落し、残ったのは最大耐用量で継続が可能で、しかも縮小が得られる、極く僅かの患者さんにしか恩恵がない治療となっている。

例えて言えば、40人のクラスで成績上位数人に合わせて難解な授業をして、その数人の生徒の成績を上昇させてクラスの平均点を上げるような作戦である。

 
       
 

もちろん、中ぐらいの成績の生徒に合わせたり、一番下の生徒の成績に授業を合わせると、クラスの平均点は上がるとは限らない。

 
 

しかし、個々の生徒を成績に応じた授業をしてゆけば、ほとんどの生徒の成績が上がるものと期待される。

 
 

この個別に設定する最大継続可能量とは、まさにそういった効果を期待しており、多くの患者に抗ガン剤治療の最大限の恩恵を与えることができる方法と期待される。

 
 

結局、当然ながら副作用も継続できる程度の軽いものになることから、QOLが保たれ、日常生活を送りながら治療が可能で、しかも生存期間が延長するという結果が期待される。いずれにしても、これは臨床試験において証明することが重要であり、現在進行中である。

 
  個別化最大継続可能量の具体的方法  
 

最初に安全と思われる量からスタートし、次回までの数々の副作用をチェックし、なければ投与量を増やし、グレード1(これまでの症例の検討から、継続できる副作用と判定)であれば、そのまま、グレード2以上であれば投与量を減らすという操作を繰り返します。通常、3-5回で安定しますので、その後は同じ量で継続します。現在のところ、この方法では重篤な副作用は極めて僅かであり、ほとんどの症例でグレード1以下で継続可能です。効果も良好で、現在さらに検討中です。
                                                        (医学のあゆみ、203: 159-160,2002)
  現在、この方法により胃がん、乳がん、卵巣がんなどの臨床試験も全国的に進められており、同様な結果が得られるつつあります。

 
 
 

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